Touch Focus

TOPARTICLES液晶レンズ技術が拓くメガネの新次元。瞬時に度数を変えるTouchFocus開発者インタビュー

液晶レンズ技術が拓くメガネの新次元。瞬時に度数を変えるTouchFocus開発者インタビュー
回折構造+液晶の9層レンズで、周辺部の歪みや中距離部の狭さを解決

2018.07.04

TouchFocus[クリックで拡大表示]

新次元と話題になっているメガネがある。

総合化学メーカー三井化学が開発した次世代メガネ『TouchFocus』(タッチフォーカス)だ。TouchFocusはスイッチひとつでメガネの特性を変えられるという、他に類を見ないものとなっており、それを実現する新テクノロジーのひとつが、電気的に度数を可変できる「液晶レンズ」だ。

革新的な技術を採用したTouchFocusは、いかにして生み出されたのだろうか。Engadget編集部で三井化学の開発者にお話をうかがった。

開発リーダーに訊くTouchFocus開発の秘密

新ヘルスケア事業開発室 E-Glass事業開発グループ 電子メガネ開発リーダーの村松 昭宏氏[クリックで拡大表示]

回答してくれたのは、新ヘルスケア事業開発室 E-Glass事業開発グループ 電子メガネ開発リーダーの村松 昭宏氏。肩書きにもあるように、TouchFocusの開発・製造においてリーダーとなる方だ。

実はTouchFocusは、三井化学が買収したパナソニックヘルスケア(PHC)で進められていたプロダクトが原型となっている。村松氏はPHC側で本プロジェクトに関わっていた経歴をもつ。

村松氏はPHCが社名変更する前の松下寿電子工業株式会社から、ビデオカメラ向けのズームレンズユニットやリアプロジェクションテレビ(リアプロ)用の光学エンジン、「フロプティカルディスク」ことLS-120ドライブの光学系やデジタルカメラモジュールなどの開発にも携わった、光学技術のエキスパートだ。

超広角レンズでありながら歪が無いリアプロ用投射レンズの光学性能をコントラスト伝達関数ことMTF(Modulation Transfer Function)で評価する測定機までも開発されており、そうした経験がTouchFocusの開発に活かされているようだ。

リーディングゾーンの範囲は
度重なるトライ&エラーの結晶

リーディングゾーンの範囲と面積はこの程度。これこそが度重なるトライ&エラーの結果という。なお使用時には、境目などはまったく気づかない▲リーディングゾーンの範囲と面積はこの程度。これこそが度重なるトライ&エラーの結果という。なお使用時には、境目などはまったく気づかない
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まず質問をぶつけたのは、液晶レンズで近距離用に切り替わるリーディングゾーンの範囲に関して。リーディングゾーンはレンズの一部のみだが、オンとオフの切り替えが可能となれば、それこそ従来は不可能だった広い範囲でも近距離用に変わるよう作れるはずだ。

村松氏は「まず全面に関しては、試作せずともダメだとわかっていました。目の前全面でピントが変わってしまうと、使用者が酔いや不快感を催すためです」と切り出す。

「実は初期にはいろいろな形状を作りました。現状の範囲は、数多くのトライ&エラーの結果です。例えば米国で先行投入されたモデルは、現行より1mmほど上下が狭い仕様となっていました。日本だと縦長の書類の見る頻度が高いことから、上下を広げました。見る対象物の縦横比から面積を変えているのです」。

リーディングゾーン[クリックで拡大表示]

また、技術的に気になったのは、カタログなどの解説にある液晶レンズの紹介だ。「回折(かいせつ)構造」を使っている旨が記載されているが、いわゆる回折レンズとして働くとすれば、ともすれば画質面でのビハインドがありそうな印象も受ける。これらの質問に対して、村松氏はこう回答してくれた。

「回折レンズなのかと言われると、正直言葉の定義が難しいところです。カタログなどに掲載した概念図では、液晶レンズの内部はキザギザとした形状にしていますが、実際はもっと複雑な形状をしています。光学系に詳しい方からは、この図などからフレネルレンズではないのか? と言われるのですが、実際はもっと複雑な形状をしています。

ただし回折レンズではない、とは言いません。用語の定義にも左右されますが、液晶レンズは回折現象を使っています。そして回折現象を利用している以上、回折レンズなのです。

TouchFocusの9層構造と、液晶レンズの概念図▲TouchFocusの9層構造と、液晶レンズの概念図
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我々の液晶レンズでは、電気的に変えられる屈折率の差を0.14に設定しています(オフ時の屈折率は1.67で、オン時は1.53)。一方、液晶層の厚みは3ミクロン程度となっていますが、約3ミクロン×0.14という値は、光の波長オーダーです。

光の波長オーダーで動作する光学系は、屈折も若干持ちながら、主に回折作用で光が曲げられます。曲げられる、というのも原理的には正しい表現ではないのですが。

回折を使った光学系と聞くと、多くの人は回折格子を連想します。そのため回折レンズと聞くと、光学系に詳しい方はあまりいい印象がないため、それっていいの? と心配なさる人もいますが、液晶レンズの場合はあくまで原理的に回折を使っている、という話なのです」

となると、最近一眼レフ用のレンズなどでも使われつつある、回折現象を使いながら画質が十分に高いタイプのレンズ、とも考えられるのだろうか。それゆえ液晶レンズは、今後の技術の発展が大いに見込める技術、ということなのだろうか。続けてこれらを聞いてみたところ、村松氏は笑いながら応えてくれた。

「はい。今後の技術発展に関しては可能性を感じていただいて大丈夫かと思います。微細な加工という点では、3ミクロンの液晶層というのは、必要な効果を得る中で限界まで薄くした状態です。しかし、それだけでも大きな効果があるのです。」

また同氏は、TouchFocusの特徴として、中距離用の視野が広く取れる、液晶のオンとオフによる度数切り替えを前提とした設計を挙げた。

一般的な遠近両用メガネのレンズ設計イメージ[クリックで拡大表示]

一般的な遠近両用メガネは、遠距離から近距離まで見える部分があること。しかし、1枚のレンズで度数を変化されるが故のデメリットも小さくはない。

例えば度数を変化させている中間距離部の左右に視界の歪みやぼけが発生する為、また中間距離に適したレンズの面積が小さいなるため、パソコンの使用時に頭を動かして視野を確保しなければならないとか、遠距離部にも近くを見るための度数がどうしても入り込んでしまうため、遠距離部の視界がすっきりしないとか、階段を降りる際、足元をレンズの近用部で見てしまう不快感など。。。ユーザーにとっては納得いただける話ではないだろうか。

つまり、一般的な遠近両用レンズは普段使いで重要な中間距離の見え方が犠牲になっていたといえる。極論すると近距離用部分は、「中距離までを見る際にはないほうがよく、また必要な時には面積がもう少し欲しくなる」という、妥協の産物的な側面があるのだ。

リーディングゾーン部のアップ。一般的な遠近両用メガネに比べて面積が大きく、また比較的縦に長い▲リーディングゾーン部のアップ。一般的な遠近両用メガネに比べて面積が大きく、また比較的縦に長い
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これを解消できるのが、TouchFocusに搭載された『液晶レンズ』だ。

液晶レンズによって電気的に度数を加えたり減らしたりできる為、レンズの度数の変化を少なくして、歪・ぼやけをレンズの端に寄せて普段使いに重要な中距離の視界を広く設計されている。その広くなった中間距離の視界を液晶レンズの度数変化により近距離に変えることができる。

TouchFocus™のレンズ設計イメージ(ON時)[クリックで拡大表示]

TouchFocus™のレンズ設計イメージ(OFF時)[クリックで拡大表示]

村松氏は、こうした原理レベルでのメリットがあるため、純粋に応用範囲が広くなるという点をアピールする。

「販売店などを廻ると『おすすめできるユーザーは?』といった質問を受けるので、私たちもいろいろとユースケースを考えました。ですが、カバーできるユーザーの範囲が広くなるというタイプの技術なので、やはり『誰でも』という答えになってしまうのです」。

また歪みの少なさから、裸眼や他のメガネからの違和感も少ない。そのため、遠近両用メガネのデビュー用としても好適だという。

TouchFocusが威力を発揮するのは
「暗めのバーでメニューを見る時」

また、村松氏は開発者としてだけではなく、実は自らもTouchFocusを愛用している。そこで、自らがとくに便利に思った状況について聞いてみた。

「とくに得意とするのは、暗い所での見え具合です。遠近両用メガネを使っている方は経験があると思いますが、中距離や近距離がとくに見えづらくなるのは暗い所です」

続けて村松氏は、自らの経験を交えてこう語る。

「例えば、ホテルのバーに行った際にメニューを見る場合などは、一般的な遠近両用メガネと比べてもかなり見やすくなります。こうしたバーの店内は雰囲気を出すためにかなり暗めなのですが、さらにメニューは下地の紙に色が付けられているため、あまり文字とのコントラストが高くないのです。

注文する際には、知っている単語のメニューと価格を一生懸命見ながらになりますが、ここで値段をしっかり見ておかないと危ないわけです。しかし回りが薄暗いこともあり、ひょっとして狙っているのでは? と思うこともあるぐらい見えにくい(笑)。

一般的な遠近両用メガネでは、結局メガネを外して、メニューを近づけてしまう場合もあります。こういった場合でも、TouchFocusであればスイッチを切り替えるだけで適切に見えます。

また、暗い所ですと、階段を降りる際の視界なども良好です。私があるホテルのバーに行った際、バーが2階構成になっていて、敷地内に階段がある作りだったのですが、そこを降りる時にとても見やすかったのです。

この階段の昇降に関しては、モニターアンケートの回答でも好評です。ビルや自宅の階段は薄暗ことが多いと思いますが、階段を降りる際の足元の視界がボケずに確保でき、階段が安心して降りられる、という声をいただきました」

交換式バッテリーとその形状は
使い勝手へのこだわり

バッテリーは指の先に乗るほどの小ささ。重量も中身を感じさせないほど軽い(右側は製品のダミーバッテリー)▲バッテリーは指の先に乗るほどの小ささ。重量も中身を感じさせないほど軽い(右側は製品のダミーバッテリー)
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次に訊ねたのは、バッテリーの仕様に関して。TouchFocusは交換式のバッテリーを搭載するが、ガジェット慣れしている立場からすると、ともすればテンプルに大容量のバッテリーを搭載し、ワイヤレス充電で運用するほうが容量的に有利なように思える。そのあたりの疑問をぶつけたところ、

「当然そうと考えていた時期がありました。しかしユーザーの立場で考えると、充電が終わらないと使えないのは、やはり不便です。メガネを使うためにクレードルを用意し、充電というのは、考えにくいのです。」(村松氏)

そこで脱着式バッテリーで、充電にはUSB経由のチャージャーを付けるという、現在のスタイルとなったという。

実は本モデルの先祖的な存在となる米国PixelOpticsの『emPower!』は、まさにこの大容量バッテリー+クレードルによる充電タイプだったという(TouchFocusはもともと三井化学がPHCから買収したプロジェクトだが、PHCと液晶レンズメガネの共同開発をしていたパートナーがPixelOpticsという関係。2011年発売)▲実は本モデルの先祖的な存在となる米国PixelOpticsの『emPower!』は、まさにこの大容量バッテリー+クレードルによる充電タイプだったという(TouchFocusはもともと三井化学がPHCから買収したプロジェクトだが、PHCと液晶レンズメガネの共同開発をしていたパートナーがPixelOpticsという関係。2011年発売)
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またバッテリーの形状に関しては、モダン(耳に引っかける箇所の耳当て)の装着感との間で様々なトライ&エラーがあったと語る。

「メガネで重要なのは、装着時の重量バランスです。当初はテンプルを膨らませてバッテリーを入れるのはどうなのか、といった意見もあったのですが、やはり交換の利便性などを優先してこの位置にしました」

emPower!(後)と試作機との比較。emPower!は内蔵バッテリーなのでモダンは小さく、試作機も発売版より少し小さい。だがこれではかえって装着感が下がってしまうそう▲emPower!(後)と試作機との比較。emPower!は内蔵バッテリーなのでモダンは小さく、試作機も発売版より少し小さい。だがこれではかえって装着感が下がってしまうそう
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実は2年前の試作機では、製品版よりテンプルの厚みが大きかった。実際にフィールドテストを行ったところ大きな問題はなかったのだが、寝転がっていると装着部が痛くなってしまうといった声が上がった。そこでこれを解消すべく、部品レベルまで見直してバッテリーの小型化とテンプルの薄肉化を行い装着感を高めたというわけだ。

また省電力機構に関しては、こんな興味深い話も出た。「実は基板側には加速度センサーを入れており、上下が逆さになると検知すると、3秒で電源をオフにします。寝るときにメガネを外して周囲に置く際、逆さまにする人が一般的だと思いますが、そうした場合には自然に電源オフとなるのです」

「電子機器が入っているからという
エクスキューズを排除したい」

ほぼ製品版となるTouchFocusの右側テンプル部。うっすらと中央に金属パイプが通っている。これは眼鏡店でのフィッティング作業の邪魔にならないように柔らかく、なおかつケーブルなどを保護できる強度を兼ね備えたものだ▲ほぼ製品版となるTouchFocusの右側テンプル部。うっすらと中央に金属パイプが通っている。これは眼鏡店でのフィッティング作業の邪魔にならないように柔らかく、なおかつケーブルなどを保護できる強度を兼ね備えたものだ
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次に質問したのは、耐久性に関して。他にない独自の原理を持つ製品となれば、このあたりは当然気になるところだ。

村松氏は、液晶レンズに関しては、たとえば耐久性試験のひとつでは16万回にも及ぶオン/オフ試験を例に上げてレンズ側の耐久性が問題になることはないという。むしろ配慮したのは、レンズよりもフレームをはじめとする、メガネとしての耐久性とのこと。

というのも、本機は他のメガネにはない電子機器が入っているだけでなく、開発目標として、一般的なメガネと変わらない使い勝手や耐久性を目指したためだ。

「電気部品が入っているから、というエクスキューズは可能な限り排除したいと思いました。また『どうせ畑違いの三井化学なので、メガネとしてはいいものではない』と言われる事態も否定したかったのです」

「フレームの素材に関しては、もともと三井化学が樹脂メーカーとして持っていたノウハウを投入しています。また耐久性に関しても、一般的なメガネ以上とすべく、例えばテンプルのヒンジ部は上下双方をネジ留めとしており、またテンプルの柔軟性に関しても配慮しています」

「また温度、湿度など、環境耐久性に関しても厳密にテストしています。実は開発を大局的なスパンで見た場合、耐久性をクリアするためにかなりの時間を掛けています。とくにここ3年は、耐久性や眼鏡店でのフィッティングに関するブラッシュアップが主眼となっているのです」(村松氏)。

テンプル部の試作モデル2種。上側が削り出したパイプを使った、製品版に近い仕様だ▲テンプル部の試作モデル2種。上側が削り出したパイプを使った、製品版に近い仕様だ
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合わせてそうした配慮の例として見せてくれたのが、テンプル部の試作モデルだ。本機のテンプルには、中を通っているバッテリー部のケーブルを保護すべく、金属パイプ(アルミ製シームレス管)が設置されている。

開発初期は汎用サイズの中で最も細いパイプを使っていたのだが、装着感の点などからやはり少し太いのでは、という議題となった。結果として現行モデルでは、さらに一本一本を切削してより細くした仕様となっているという。
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パイプ断面側での比較。わずかながら上側が細いことがおわかりいただけるだろうか▲パイプ断面側での比較。わずかながら上側が細いことがおわかりいただけるだろうか
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TouchFocusは、こうした様々な耐久性への配慮により、眼鏡店でのフィッティングに関しては、一般の製品の様に調整が可能。村松氏は「取り扱っている眼鏡店の技師の匠の技を邪魔したくなかった。こうした技が反映できることが、眼鏡として重要だからです」と語った。

また、メガネとしての作りを重要視するという点では、フレームのバリエーションやデザインに関しても反映されている。

TouchFocusのフレームバリエーションは、基本デザインが3種類で、カラーが20種類。さらにサイズに関しては、フロントが6種類、テンプルの長さは3種類......といったようにバリエーションが多く、現状でも総計47種に及ぶという。

このあたりの話からは、村松氏の語る「エクスキューズは可能な限り排除したい」という姿勢が強く感じられた。

「均一な3ミクロン」を必要とした
液晶レンズは、その測定機から作成

液晶レンズの形状サンプル。底面側にあるのがレンズ母材としての形状だ▲液晶レンズの形状サンプル。底面側にあるのがレンズ母材としての形状だ
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このようなTouchFocusだが、製造工程はどのようになっているのだろうか。

「加工に関しては一般的なメガネ用レンズと同じように、大きなレンズ母材の形で出荷し、それを眼鏡店で加工します。加工前の大きなレンズの形状で、既に中央付近には電極や液晶など、液晶レンズとして必要な加工がなされた状態となっているのです。」

しかし、ミクロンオーダーの液晶層を封入し、回折を起こせるほどの加工精度というのは非常に微細なはず。果たして製造はどういった方法になったのだろうか。

「これはもう、現在の最高峰的な技術を導入して可能になった、と言える話です。例えば原型となるマスターレンズを作る際には、光学系のデータから実際のレンズの形状データを作成する計算だけでも、数週間コンピューターを動作させる必要がありました。

さらにマスターレンズを加工機で作るのにも、求められる精度と形状の複雑さから数週間を必要とします。もちろんこれはマスターの作成時間で、マスターさえできれば、そこからの複製となりますが。加工機に関しては、現状での最高精度のマシンを使っています」

そして村松氏は、なんと必要に応じて測定機までも作ったというエピソードを紹介してくれた。

「実は今回の開発に際しては、測定機から自社で開発しました。というのも、従来のメガネ用レンズはここまでの精度を必要としなかったためです。

目で見ると綺麗な球面のように見えても、液晶レンズで要求されるサブミクロンやナノミクロンの精度で測定すると、凄くゆがんでいる、ということが往々にしてあります。TouchFocusの液晶レンズは、液晶の厚みを全域に渡って3ミクロンに統一する必要がありますが、面積が比較的大きく、かつレンズ形状は曲面になっています。その中で均一な厚みを確保するというのが、製造面でも測定面でも難しかったのです。

これを測定するには三次元測定機を使えば可能ではありますが、測定時間が長く、実用的ではありませんでした。そこで測定機自体から作成したというわけです。形状の精度を改善するためには、当然ながらどういったゆがみ方をしていて、どういった傾向にあるのか、また要因が何か、という点を検出しなくてはなりません。それには当然ながら、適切な測定が必要になるわけです。

実はこの測定機で、試作段階よりすべて測定しています。具体的な計画はまだ言えませんが次のイノベーションには、これらのデータとノウハウが役に立つはずです」

高精度なレンズ製造なれど安定して供給可能

新ヘルスケア事業開発室 E-Glass事業開発グループ 電子メガネ開発リーダーの村松 昭宏氏[クリックで拡大表示]

このように加工精度の高さを聞いていると、どうしても気になってくるのが歩留まりだ。これだけの精度が要求されるレンズは、当然ながら製造に関してもかなり難しいはず。いわゆる歩留まりの管理が大変、といったことはないのだろうか。

村松氏はこう回答してくれた。
「現状では安定して供給できる体勢です。ただし、どうしても透明度が要求されるため、製造工程での汚れなどはシビアになります。さらにリーディングゾーンでは、液晶を挟んでレンズを2層作るわけですから、条件としては非常に厳しくなりますね。そのあたりに起因する歩留まりの減少はどうしても発生します」

「基本的な生産工程が確立された状態で歩留まりを挙げるには、ともかく地道な改良を愚直に行なうしかありません。そのあたりは一生懸命改善してきました。開発に際しては真っ直ぐ歩めたわけではなく、いろいろと遠回りしてきたところはありますが、現状に関しては、レンズの歩留まりで販売が制限される、といった状況にはありません」

理想の普段使いメガネで
「老視を怖いものでなくしたい」

インタビューで披露された多数の試作機。これらのトライ&エラーで培われたノウハウがTouchFocusに込められている▲インタビューで披露された多数の試作機。これらのトライ&エラーで培われたノウハウがTouchFocusに込められている
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最後に、TouchFocusの今後の展開に関しても伺った。

村松氏は、近々の計画としてはより多くの人が使えるように、度数などのバリエーションを増加させる点を優先するという。合わせて、メガネの厚みやフレームのサイズ拡充を図り、より様々な顔の方に合わせるバリエーション展開もしていきたいと語った。合わせて、現状では18店舗となっている取り扱い店も増加させたいという。

では、より長期のスパンではどうか。実はTouchFocusは将来に向けた機能拡張も考慮した設計となっており、たとえばバッテリーの接点は電源のみならず、センサー情報の通信も可能という。

さらに、液晶レンズ自体の技術的な可能性としては、3Dヘッドマウントディスプレイに搭載し、3D酔いを軽減できるレンズとしての応用や、10歳までの子供のピント調節トレーニングを補助する(周囲に遠景がなくても遠く見る訓練を手伝える)機器なども考えられるという。

あくまでも将来の話だが、こうした別分野での展開も見られるかもしれない。

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村松氏との話の中で印象的だったのが「普段使いのメガネを作る」という言葉だ。これは、上記の「メガネとしてのエクスキューズを排除する」という姿勢とも共通しているが、それだけではないという。

「もともと遠近両用メガネは、年齢を重ねた人のための普段使いのメガネを作ろうとして生まれてきたものと思っています。私たちも、普段使いの理想を実現できるメガネを作ってみたかった。『老眼だから掛けている』というメガネにはしたくないのです」

「私たちはTouchFocusを、使っているユーザーの『楽しく生活がしたい、年を取りたくない』という声に答えるモデル、生活が楽しくなるモデルにしたいのです。『老視になるというのは、決して怖いことではない』と思っていただければ幸いです」

取扱い店舗

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